~DIYで行うフレット交換の記録/オーバーバインディングでフレット交換/国産エレキのフレットはタング幅が広くて溝が大きい~
私は長年使っているセミアコ Greco SV-800 のフレットを そろそろ細めの既製品のスレットにすべて交換しようか ず~っと考えていたんです。
昔やった時より道具を持っているので フレット交換は出来るけど、深い作業になると何が起きるか分からないからなぁ…。
今回は、30数年ぶりに ひと竿 全フレット交換した詳細記録です。
ウクレレやフレットレスベース等を手掛けた 概要編についてはコチラにも まとめてありますので参照してみて下さい。
また 今回のリフレットで 私の判断が甘かった点があり 手戻り作業した記事がありますので 是非参照してください
まずはフレットの選定
元のフレットは、好みに整形して フレット高も まぁまぁ あるんですが、昔ストラト弾いてた時の既製の細いフレットが弾き易かった記憶があって、ジムダンロップの#6105とかジェスカーの#55090にしてみたいなぁ…と思っていました。
サウンドハウス/ジムダンロップ#6105 サウンドハウス/ジェスカー#55090溝が拡がっちゃってるハズなので、選ぶならスタット数が多くて 尖がっている ジェスカーの#55090になるかなぁ~と考えてたのです。
フレット交換には タング幅が溝に合っていることが必要です。
私のギターは、むか~し DIYでフレット交換したことがあるんですけど、メーカーや型番を覚えてないので 実機のフレットを1本抜いて タングを測ってみたのです。
そしたら 腐食もあって0.6㎜強。
当時の国産エレキの多くは、三晃製作所のフレットを採用していて、タング幅が0.6㎜だから それに合わせて 私は新たなフレットを打ち換えたのか、それとも 何も考えていなかったのか ただの偶然か…。
いずれにしても、ジェスカーの#55090は タング幅が約0.5㎜、強めのスタット幅を考慮しても 私のギターでは 接着剤を多く充填しないと 抜ける可能性が大きい…。
選定を見直して、国産フリーダムのSP-SF-01Sステンレスか SP-NF-01ニッケルシルバー、もしくは三晃製作所の214Hで比較検討しました。
サウンドハウス/SP-SF-01S SPEEDY サウンドハウス/SP-NF-01ニッケルシルバーフリーダムのステンレスフレット(speedy)は、一般的なステンレスの硬度HV300を210まで落としているので 注目を浴びていますね。
しかし、いくつかのレビューを調べてみると ステンレス加工は、 やはりプロの技術と専門工具がないと難しいのではないかと思いました。
また、三晃製作所のSBB-214Hは、直営通販で少し値段が高いのと 硬度が公表されていなくて 比較できない。
フリーダムのSP-NF-01は、硬度がHV200あって(=NS18%、ジャスカーも同様) ニッケルのふくよかなトーンと摩耗の抑制を兼ね備えていると判断しました。
作業開始
その前に フレットのアールをどうやって仕込む?
フレットは 指板に合わせたアールが付いているものがありますが、今回準備したフリーダム製にはアール加工は施されていません。
アール加工は、フレット打ち込み作業には必須で 仕上がりを左右します。
実際の指板の弧(アール)より 少し強めに付けて打ち込まないと、1弦側をハンマーしたら 6弦側が浮いて打ち込みが出来ない という事が起こります。
逆にアールを強すぎて付けてしまうと 最近の硬度の高いものだとフレットの真ん中が浮き気味になってしまいます。(今回これで1本無駄にしました…)
アール付けの機械は市販されてますが、このためだけに高価な機材を購入することは避けたい…。
そこで、倉庫の道具箱を探ってみました…。
すると、金属パイプを切るときに使う「パイプカッター」にローラーが付いていて 曲げ作業に使えそうです…。
取り寄せたフレットは、24本入りで2本を予備として使えるので、事前作業を試してみます。
今回のフレットはニッケルですが、硬度VH200って 思ったより硬いですね。
また、カット済みのフレットなので なめし曲げは出来なかったですが、ローラーが丸いので 断続的に力を加えても 案外と滑らかには曲がりました。
長いワイヤーなら テコが使えて もっと効率が良かったと思います。
フレットの取外し
フレットを取り外す時に もっとも難関なのは 指板の溝周りの「ささくれ」です。
これを少しでも緩和するために、
①ネックを逆ぞりにする
②フレットにハンダこてなどで熱を加えて、付着しているであろう接着剤を緩くする
③その他
さて、フレットを抜いていきます。
ん~?引っ掛かりが強いぁ…。これまで経験したことないくらい
早速、ハンダこてで熱を加えたり、熱湯を垂らして木部をふやかしたりしました。
しかし…
ん~、傷みが激しいです。
フレットレスベースを手掛けた時と大違いだぁ!
今回のギターは、40年以上経ってますので 指板のローズウッドは枯れて痩せていることもあるかもしれませんが、大きな原因は次の画像のようにフレットスタッドの形状にありました。
バカでかいスタッドが、溝の木部を掻き上げてます!
こんなにデカいスタッドだと、加熱や木のふやかしではタチ打ちできません
こりゃ辛いなぁ~、でも続けるしかありません。
加えて 熱で溶けた蜜蝋が邪魔して 破片を元位置に正確に戻させてくれないのです…がんばれがんばれ。
ささくれた木片を爪楊枝でポンポンと優しく押して 瞬間接着剤(液状)をしみ込ませます。
木片が小さくて戻せない箇所には、後の指板の研磨で出る木粉を使います。
つまり、この工程は手戻り作業で行うことになります。(後述)
私の補修方法は、まず 瞬間接着剤を微かに垂らして 作業で出たローズウッドの粉を付着させて さらに上から1滴たらして表面硬化させます。
ひでぇ~なぁ~、でも大丈夫です。
ダイヤモンドやすりで 部分研磨するとこんな感じ。
見てくれは、この後の指板すり合わせで解決できるのです。
指板の擦り合わせ研磨
指板の擦り合わせの前に、フロントPUの養生とナットの取外しを行います。
45㎝くらいの金物定規をあてて ネックが真っ直ぐになっているかの確認と 横から隙間をよく見て 擦り合わせの重点箇所にマーキングします。
マーキングが消えるまで削り研磨するわけです。
※最終フレット付近は、製造工程で下げて作られているので、そこを基準に水平にしないように注意してください。全体が削り過ぎになってしまいます。
指板のアールは、フレットの土台作りとして重要な工程です。特にセンターラインは サンドペーパホルダーを使って直線が出るように研磨しています。
このラインを元にサンディングブロックでR付けの研磨をします。
全体研磨をするとこんな感じ。私は60番で粗削り、180番、600番(400番)、1200番(1500番)、2000番で表面がサラサラ(ツルツル)になるまでやっちゃいました(笑)
先ほどの部分補修の醜い箇所がわからなくなってきましたね。
この工程で出た指板の木粉を使って 溝周辺の整形処理に手戻りしますが、ささくれ補修は この後の溝クリーニングでの ささくれ でも また必要になりますので、常に手戻りしながら先に進んでいく感じですね…。
溝のクリーニングと ささくれの再補修
表面研磨すると溝に木粉がタップリ入っています。
たくさんリリースされている フレット打換えの記事では、この工程をクリーニングと言っていますが、掃除というよりも「溝の深さの確保」という重要な工程です。
これをしっかりやらないと、フレットを打ち込みながら「あれ最後まで脚(タング)が入ってない!」ということになってしまいます。
このやり直しはリスクが高いです。
私が使ったのは アクリル板カッター。
元のフレットはタング(フレットの脚)が 国産ギターに多く使われている0.6㎜。それに加えて でかいスレッドだったので、経年もあって溝が拡がっています。
このアクリル板カッターは、刃の厚さが0.6㎜ですが0.5㎜のフレットを付ける時は0.4㎜未満に研いで使用します
固いものも掻き出すことが出来るので 大活躍でした。
実は いくつかの溝の底で何かが固まっていたのですが、刃でコリコリ根気よく掻いていたら 次第に破片が上がってきたんです。今回のDIYが完了できたのは、このカッターのおかげなのです。
しかし、溝の中で刃を何度も動かすので 溝は微かに拡がってきます。
木粉と接着剤を使った溝周りの補修をここでも行います。(前述)
私はフレットタングを波打ちさせて拡げるパワー工具を持っていませんので、この作業で この後のフレット打ち込みでの接着剤の使用は やむを得ないなと覚悟しました…。
いざ、フレットの打込み
フレットのアールについては、前述したので省略しますが、私のギターのネックは、バインディングのエッジを丸めているので、ほんの微かなオーバーバインディング仕様にしか出来ません。
とても難しいと思いますが、それでもタングカットは やる必要はあると判断しました。
出っ張ったクラウンの底にタングが少しでも残っていると、オーバーバインディング処理が出来ないので、リューターでタングの跡を綺麗に取り除きます。
残ったクラウン部分は、装着前に目安でカットして、装着後に僅かなバインディングに見合うように ダイヤモンドやすりで削り落としていきます。
画像には映っていませんが タングをカットしたクラウン部分はバインディングに密着するように曲げることを忘れないように…
指先の引っ掛かり次第なので、感触に頼る作業です。
打ち込みは、フレットが指板の表面(アール)にピッタリと張り付くように ハンマーの当たり角度に集中します。
フレットは金属なので、ハンマーの根元を持ってポコポコ打つのではなく、ヘッドの重みを落とすような 瞬間の衝撃を加える感覚で打つと 金属は変形しやすく 綺麗に仕上がります。
カタカタチェック と 高さ修正
全部打ち終わったら、先ず長い金属定規でフレットとの間に隙間がないか 向こう側から光をあててネックの反りをチェックします。
ネックが真っ直ぐなら、小さな金属定規で3本づつ跨いでカタカタするか細かくチェックします。
土台となる指板の表面加工がしっかり行われていて、フレットの打ち込みが張り付くように入杭出来ていれば、このカタカタチェックはクリアするはずですが、木材部分もあるので なかなか完璧には行きませんね…。
この画像のチェック位置は、2~3弦付近だと思いますが、6本の弦が通過する位置は必ずチェックします。
フレットが僅かでも出っ張っている部分を見過ごすと、弦高を下げた時に大袈裟と思うくらいビビり音が発生します。
弦高が高ければ発生頻度は少ないですが…ここでやっとかないと いつ発症するか分からない持病持ちのままということになりますよね(笑)
フレットの発生箇所には黒マジックでマーキングします。
一般的には、このあとはフレット擦り合わせとなりますが、全体的なズレがない限り 私の場合は部分補修にしています。
出っ張っているフレットのトップを削って カタカタが無くなったら 若干 平たくなったトップを丸め加工する必要がありますが、以前に掲載した方法と同じなのでココにリンクを張っておきます。
フレット磨き
フレットは仕上げに磨きを入れないと 表面の微細な凹凸を弦が掘り下げてしまうことがあります。
磨きは、スチールウール→1500番程度のサンドペーパーで ほぼよろしいのですが、ピッカピッカにする人はピカールやリューターでバフ仕上げしてるようです。
ナットの作り直し
フレット交換は、ナットも交換しないといけませんが、これは通常使っている GRAPHTECHのPT-6060 を注文しました。
エピフォンと同じサイズです。
サウンドハウス/GRAPHTECH / PT-6060-00ナット交換は、削ったら弦を張って高さチェック、また削ったらチェックの繰り返しで、弦高やブリッジPU高にも連鎖するので根気が必要です。
プロでも失敗することがあるそうです。
私はDIYレベルで 慣れているつもりでしたが、今回は1弦の音に違和感を感じて 削り角度を修正しました…。
ナットは過去に記事にしたことがあるので、参考までにリンクを張っておきます。
完成~
フレットタング幅の1/100㎜単位の違いが逆・順反りを招く(最低幅の単純計算でも0.22㎜以上の影響?)ので ネックの不安定化を気にしてましたが、一晩寝かせて 全体チェックしたところ ロッド位置は 昨日の位置でOKでした。
そこで仕上げ工程として、オーバーバインディングの末端のバリ補修、ブリッジ高、 PU高、 オクターブチェックを終えた後、試し弾きをタップリ行った結果~
今回のフレット交換は、ミドル・ハイのサイズにしたため、今までの太い物より フレット上に指が乗っかりにくくなって 出音が良くなりました。
また、不思議とテンションが柔らかくなったようにも感じます… 指板に指が触れないからかなぁ…日にちを開けて弾いてもそう感じました…。
これで Greco SV800 30数年ぶりのフレット交換が完成で~す!
まとめ
フレット交換は ナットの作り直し や ブリッジ高 PU高 オクターブチェック 等の調整を要するから 着手すると 毎日 日が暮れるのが早いです。
言い方を変えれば、DIYでやるには とてもリスクと手間がかかる作業なので覚悟(自己責任)が必要です…。
【 編集後記 】
外したフレットはコレ
30数年使ったけどもう見たくないなぁ…。